ひょっとして…から始まる恋は
「この子は押しに弱くて、頼まれると断れない質みたいでね」


父の言葉に叔父が笑いながら、そんな風に見える…と言い、良ければ…と話を続けた。


「柚季ちゃんは確か秘書の資格を持っていると言っていたよね。だったら叔父さんの秘書をしてくれないかな」


自分の秘書をしている女性が、三月末で結婚退職をするのだと教えられた。

さして忙しくもない整形外科医だから、今いる秘書達にスケジュール管理などを任せようかと思っていたそうなのだが。


「年末の忘年会で、『これ以上忙しくさせるつもりですか?!』と筆頭秘書に叱られてね」


筆頭秘書…つまり今、目の前にいる三波さんのことだと思う__。



「営業事務を経験してるなら此処の仕事は直ぐに覚えられる筈よ。教授のスケジュールを管理して、研究の内容や講義内容なんかをパソコン入力するだけだから」


後は何処でもするような一般事務ね、と話す先輩二人を前に、ご指導の程宜しくお願いします…と深く頭を下げた。


この時はまだ彼との再会があるとは知らずにいた。
ただ、咲きほころび始めた桜のように、久し振りに初々しい気持ちが生まれていた___。


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