ひょっとして…から始まる恋は
「お疲れ様。藤田君」
努めて平静を装いながら微笑む。
心の中では小雨が降り続け、寒々としたものが募っていく。けれど、それを見た彼がふわっと微笑み、お疲れ様と返してくるだけで報われた様な気がして……
じわっと目頭に涙が浮かんできそうで、さっと俯いて逃げた。
例え挨拶でも出来て良かった…と思え、だけど、やっぱり忘れられない…と確信もする。
このまま私は彼を忘れずに生きていくようになるのだろうか。スッキリとしない感情を持ったまま、毎日を送り続けるのだろうか……。
吐いてしまいそうな食べ物を胃の中に収め、ムカムカしながら午後の仕事をこなす。
この頃ようやく慣れてきた仕事なのに頭の中では転職という文字が駆け巡り、そんなこと出来る筈がない…と首を振って打ち消す。
叔父が私のことを思ってこの職場に誘ってくれたのだから堪えないといけない。
失恋したくらいで仕事を変わるなんて言い出せば、叔父の顔に泥を塗ってしまうことになる。
教授の姪はアテにならないと言われたら困る。
どんなに辛くても仕事だけは続けないと。