ひょっとして…から始まる恋は

(…いけない。のんびりしてる場合じゃなかった)


ハッと思い出し、少しだけ寄るつもりで来たんだったと我に返る。
最後にもう一度だけ眺めておこうと目線を上げ、サヨナラ…と一言、言おうとしたら。


「あの……ひょっとしてと思うけど、保科さん?」


男性の声がして振り向いた。
そこには長身の人が立っていて、黒いスーツに身を包み、水色のネクタイを締めている。


「あの…」


誰だろうか。
ぱっと顔を見ただけでは分からない。


相手は私のことをじっと見て笑いかけてくる。
私はその笑顔に戸惑い、誰?と首を傾げた。


「ちっとも覚えてないか。まあ無理もないよな。あの頃の君は靖のことばかり見てたし」


男性はそう呟くと私の方に近づいて来る。
こっちは困惑しつつも歩み寄る姿に目を向け、湧いてくる疑問を思った。


この人はどうして私が藤田君を見ていたことを知っているのだろう。
それを知っているということは、この学校に通っていた生徒なのだろうか。


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