ひょっとして…から始まる恋は
嬉しそうな声が聞こえ、ちらっと目線を上げてみる。けれど、ソフトブラックの瞳が私を見下ろしているのを見つけるとビクッとして、直ぐに目を逸らせた。


久保田君は黙って私を見続けていた。
変に話しかけられるよりはマシだと思うけれど、どうにも話しづらくて困ってしまう。


そもそもどうして彼が私の高校時代の習慣を知っているのか。藤田君ばかりを見ていたなんて、彼はそんなにも藤田君に近い存在だったのか。



「俺さ」


低めな声にピクッと指先が揺れる。
久保田君は足を組みながらリラックスしている雰囲気を醸し出し、けれど目線は私に向けたままで話しだした。


「俺、いつもずっと靖の隣にいたんだけど」


「えっ?」


顔を上げると軽く微笑む。
その顔を見たまま瞬きを繰り返し、本当?と窺うように聞き返した。


「ほらね、全く覚えてないし」


ガッカリという感じの言葉が戻る。
彼には悪いなと思うけれど、私は本当に藤田君しか目に入れてなかった。


「仕方ないか。保科さんは靖のことが好きだったもんな」


あっけらかんとして言われ、カッと頰に熱が帯びた。
堪らず声を詰まらせ、手で口元を隠した。

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