ひょっとして…から始まる恋は
こんなめでたい日にブラックな噂が真実だなんて、知りたくもなかったよ……。


モヤモヤと胸の中に暗い気持ちが立ち込めてきて、隣に座る久保田君の表情さえも窺えない。
沈黙している彼もきっと誤魔化しようがなくて、言葉を探しあぐねているのだろうと思われた。


「……ねえ、ひょっとしてとは思うけど、その噂、信じてないよね?」


久保田君は沈黙を破るように声を出し、いや、自分的にはそう思ってても構わないんだけど…と言い直す。
私は耳を疑って振り返り、まじまじと彼の顔を窺った。


「でも、それじゃ相手が可哀想だからな」


うーん…と態とらしく悩んでいる。
久保田君は上目遣いに迷うフリを見せながら、まるで悪戯でも考えているように思えた。


「……まあいいか、俺が弁解しなくても」


行けば分かることだし…と呟く彼に、そこは弁解してよと言いたくなる。
だけど生憎タクシーがホテルに着いてしまい、私はその言葉を出せずに引っ込めた。



「いいよ。先に降りてて」


久保田君はポケットから財布を取り出し、藤田君から貰ったと言うタクシーチケットを探している。


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