ひょっとして…から始まる恋は
彼女とお兄さんは付き合ってなかったけど、病院絡みで否定もしづらくて、何よりも彼女が靖の気を引きたかったから敢えてデマだとも言わなかったしね」


焦らせたかったんだよと話す久保田君が、ちらっと目線を上に向ける。


「見てごらんよ。指輪の交換が始まる」


ハッとする言葉に促され、視線をモニター画面に移す。

祭壇の上には台座に乗せられたリングが運ばれていて、新郎と新婦の指に嵌められるのを待っていた。


リングを手にした藤田君が新婦の掌を掬う。
その指先には淡いピンクのネイルが施され、その上にパールやシルバーのチップが散りばめられていた。


久保田君はそれを見ながら、流石は本職だな…と呟き、彼女はネイリストなんだよ…と教えてくれた。


「すごく徹底してる人なんだ。ネイルもお嬢様の道楽で終わらせないで、ちゃんと勉強して自分の店も構えてるんだ」


藤田君の爪も彼女が手入れをしていると聞かされた。
それで私はいつか見た綺麗な爪のことを思い出した。


「靖曰く、『英里紗が爪の手入れをしてくれる時が自分の至福の時間』なんだって」


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