花に美少年
出勤してすぐ申し送りを終えて、ナースステーションから1階の受付に用事を済ませに向かう途中、私は急いでいた歩を緩めた。もう人の少なくなった待合スペースに、制服姿の背中を見つけた。
だから思わず立ち止まった。
いつか結児君が言った言葉を思い出す。
"もし帰って来なかったら、俺制服のままめいちゃんの職場まで迎えに行くから"
まさか、ね・・・。
再び歩き始めながらも、何度も確認するように視線を向ける。でも今日はバイトって言っていたから、まだ帰っていないはずだし。もしかしてバイト前に一度帰って、私の荷物がないことに気づいたとか?
いや、でも私の職場どころか職業も伝えていないし。名前と年齢だけで見つけられるわけないもん。
だけど、あの男なら・・・。
やっぱり気になってもう一度視線を向けたタイミングで、制服姿の背中がゆっくりと振り返った。
「私、すごくバカだ」
慌てて正面を向き直り、誰にも聞こえない声で呟いた。
何やってるんだろう、私。
何考えていたんだろう、私。
恥ずかしさに進む足が速くなっていく。
心臓がバクバク音を立てる。