花に美少年
だけどこのまますぐ帰ることになりそうだ。
ホッとすればいいのに、そうなれない。
「あったよ」
リビングに続く扉が開いて、結児君が充電器を持って現れた。その髪が、雨で少し濡れている。いつもはふわっとした髪が、元気なく見える。
「やっぱりロフトだった」
「そっか、ありがとう」
「うん」
私よりも大きな手から充電器を受け取る。
「じゃあ、もう行くね」
あまりにも簡単だった。もっと苦労すると思っていたのに、そうじゃなかった。これではまるで違う展開を期待していたみたいで、私は急いで背中を向けた。
「鍵開ける」
背後から聞こえた声と同時に伸びてきた手が、ドアノブの下の鍵に触れる。
「あ、鍵、かけてないから」
玄関に通されてから、そのままにしていた。
だから鍵は開けなくても・・・そう思った時、目の前の手が確かに動いた。結児君が、鍵を締めた。
「え、結児君?」
「ごめん」