花に美少年
「いいよ、ゆっくりで」
「でもお腹すいたでしょう?」
「うーん。まあまあ」
そう笑った結児君に続いて入ったリビングで、いつもと違う光景を見つけた。
「実は少し前にドーナツ食べたんだ」
少し申し訳なさそうに言う結児君の顔を見ないまま、私はその一点を見つめた。
「・・・ねえ、結児君」
「ん?」
「誰か、来ていたの?」
ソファの前に置かれた小さなテーブルの上には、初めて見る赤いマグカップ。その横には、いつも結児君が使っている青いマグカップが並んでいる。
言われなくても、お揃いだって分かる。
「うん。来ていたけど、」
「あのマグカップ、初めて見た」
私の言葉に、結児君の視線もテーブルに映る。
それから目を細めた結児君は、
「ああ、あれは“あいちゃん”専用なんだ」
当たり前のように、知らない女の名前を口にした。
「あいちゃん?」
結児君の顔を見ることが出来なかった。
「うん。貸していたDVDを返しに来たんだ」