花に美少年
ゴミ捨て場でウロウロしている高校生を見かけて、声を掛けた記憶はある。その顔までは覚えていないけど。
「いつも可愛いなって思っていた人に急に声掛けられて、しかもすごく近い距離に立ったら良い匂いとかするから、説明なんて話し半分で聞いて、ただめいちゃんから目が離せなくなった」
「な、何それ」
「ダサいし、気持ち悪いよね」
結児君は冗談でも言うように笑うけれど、私はそれどころではなかった。
恥ずかしくて、恥ずかしくて、心臓が壊れそうだ。
「その時、別れ際にめいちゃんが“いってらっしゃい”て学校に向かう俺に手を振ってくれたんだ」
「・・・私、なんか恥ずかしいね」
「嬉しかったよ?それもすごくね。いってらっしゃいって誰かに言われることがすごく幸せなことだなって気づいた。それで、そういう言葉を自然に言えるめいちゃんが、やっぱりすごいなって思った。この人に毎朝見送られたら、絶対に幸せだって」
「そんな、大袈裟だよ」
「うん。でもそれで惚れた」
「へ?」
「めいちゃんのその一言で、完全に落ちた」
結児君がまた、真っ直ぐに私を見る。