花に美少年
「別れたのかなって思った」
その予想は、結果的には正解だった。
「それで複雑な気持ちになった」
「え?」
結児君の眉が、困ったように下がった。
「別れたなら俺にもチャンスが巡ってくるかもしれないから嬉しいって気持ちと、このアパートを出て行ったってことはもう会えない可能性が高いって事実に、複雑な気分だった」
確かに住む場所しか知らないなら、引っ越してしまったらお終いだ。
「話しかけなかったことをすごく後悔した。でもだからあの日、アパートの前で立ち尽くすめいちゃんを見つけたときは、迷わずに声を掛けたんだ」
あの夜の記憶が、まるで昨日のことみたいに蘇る。
ボロボロの私を「おねーさん」と誰かが呼んだ夜の光景。
「そう、だったんだ」
「うん。ついでに言うと、あの男の部屋に新しい女が出入りしていることも知っていた」
「え、」
「めいちゃんのストーカーだから」
そう言った結児君が、悪戯に笑って私を見る。
「でも、それを知った時はめいちゃんを手に入れるチャンスだと思った」