花に美少年
だけどその後はまた映画に集中するように、部屋は静かになった。
意味のわからない緊張感も、映画が佳境を迎えるにつれて忘れていく。迷惑なラブシーンがあったことも忘れてしまうような緊迫した展開に釘付けになる。
だから気づくのが遅れた。
「・・・へ」
その距離が、互いの肘がぶつかるほどに近づいていたことに、柔らかな髪が私の肩に触れるまで気づかなかった。
「あの、結児君」
潜めて出した声に、寄りかかる男は特に反応する気もないらしい。
押しのけようか、文句を言おうか考えたけれど、映画の空気がそれを許さないようで、それ以上動くことも声を出すことも出来なかった。
ふと気づいた。
こんな風に誰かと部屋で映画を観るなんて、今までなかったことを。
そう考えると、本当に禄でもない男としか付き合ってなかったのだと思い知る。
高校生の時に初めて出来た彼氏には、付き合って三か月でフラれた。その理由が、「告白されたから付き合ってみただけで、お前のこと実は好きじゃない」だった。