花に美少年
自分でも完璧だと褒めたいくらいの笑顔を作ってみせると、結児君が疑うような目で私を見た。
「な、何?」
「ううん。めいちゃんが珍しく素直だから」
「いつも素直だと思うけど?朝から本当に失礼」
「まあ、いいや。めいちゃんも仕事頑張ってね」
何それ。ちっとも良くないっていうか、すごく疑われているよね、私。
それが面白くなくて返事を躊躇っていると、高校生のくせに整った顔の男が距離を詰めてきた。
「顔、近いから」
「いってらっしゃいのキスしてもらおうと思って」
「するわけないでしょう」
「痛って」
「さっさと行きなさい」
羨ましいほどきめ細かな頬を抓ると、結児君はまた嬉しそうに笑って「いってきます」と部屋を出て行った。本当に、油断できない。
だけど今日に限っては私の方が上手だ。
油断したのは湊結児。
結児君が出て行った部屋で、私は急いで自分の荷物をまとめ始める。本当は夜勤だからしっかり寝ておきたいところだけど、のんびりしていると何があるかわからない。
メモくらい残そうかと迷ったけれど、考えて止めた。