私は君と嘘をつく
新しいもの

五月はハジマリ

律side


8時15分。
ちょうど生徒達がたくさん登校してくる時間帯。
窓を覗けば、下には新入生たちのキラキラの笑顔と、2年生の少し眠そうな顔が見えた。


そんな後輩達を呑気に見ている私は、今年最上級生となった訳だけど…



「正直、この時期にドキドキもハラハラもないよね」

「ええ!なんで?最上級生だよ?もしかしたら、新入生から告白とかあるかもしれないじゃん!」

「遠慮だわ、それ」

「えー」


私の前で可愛らしく揺れるツインテール。
この子は高校一年生の時からの友達の
光姫。
私と光姫は特進科だから、クラスは3年間変わらず、周りを見渡しても見飽きた顔が並んでいた。
でも、その生徒の半分が、教科書や参考書を広げていた。


「あ、そういえば、来週はテストだね…」

そう言いながら項垂れる光姫。

「あぁ、そっか。だからみんな。」


本を開いてるんだね、と他人事のように言うと、目の前のツインテールが勢いよく起き上がった。

目線は窓の外。本当にハートになっているようにも見えるその瞳の先には、もちろん。
光姫の彼氏である、城島秋音。


「あっくんだ!今日もかっこいいな~」

「はいはい、いちいち報告しなくていいから」

「でもでもでも!最近あっくん髪の毛切ったから、もっとかっこいいの!直視できない!」


それはそれは良かったね、と適当に返すと聞いてる!?って怒られた。

聞いてる。あとそれ3回目。
と、言うのは我慢して、私はスマホを開いた。

正直なことを言うと、城島がどの辺の髪の毛をどう切ったのかがわからない。
印象が変わることはないし、かっこいいと思うこともない。

城島はいわゆる、チャラ男で、1年生の時から彼女は絶えなかった。
顔もイケメンだしね。

でも、普段は光姫に甘えて、ラブラブでクソあっまい城島しかしらないから、かっこいいとは思えないな

と勝手に人の彼氏をディスるのはやめておこう



「あ、あっくん!」

「光姫~!おはよっ」

「うん!おはよう!」


あーあ、目の前でイチャついてくれて…
周りにもっと気を使ってほしいよ
そして、こうやっていちゃつき終わったあとは、

「あ、志吹、はよっす!」

「…おはよう」

このように私に挨拶をして去っていく。
別にしなくていいんだけど


「じゃ、そろそろ席戻るねっ」

「うん」


光姫が席についた少しあとにチャイムがなった。

私は窓側の席だから、この時期は眠くて仕方が無い。
まぁ、優等生な私は寝たりしないけど


先生がやってきて、HRが始まった。

テスト期間ということで、ほとんどの部活は休みになる、ということ以外は聞き流しておいて、私はまた窓に目をやった。

何も変わらない。去年も同じような景色を見た気がする。


「帰りのホームルームで委員会を決めるから、学級委員やりたいやつは決めとけよー」


先生がその言葉を言い終わるのとチャイムがなるのはほぼ同時だった。
先生の言葉を大して聞いていないであろう、サッカー部の佐々木君は1番に席を立ち廊下へ走っていった。


その後もぞろぞろと1時間目の準備や、友達とのおしゃべり、そして大半が勉強をし始めた。

もちろん光姫は、愛しのあっくんとラブラブトークなるものをしている。


「はぁ…」


「朝からため息を吐くな鬱陶しい」



…ったく。めんどくさいやつがきた。


「じゃあ近くに来なければいいでしょ」


「お前のため息デカすぎて俺の席でも聞こえるから意味ねぇよ」



ああ言えばこう言うひねくれものめ
私が言えたことではないけど、この桐谷透里よりはマシだと思う


「それはどーもすみませんでした。で、なに?それだけを言うためにここに来たわけ?」


だとしたら相当暇なのか馬鹿なのか


「んなわけねぇだろ。…あの事言ってねぇよな」


ん?…あー…はいはいはい

思い出した思い出した。


「何?あんたの好きな――」


「おい。」


「…はあ、言わないから。あっち行ってくれる?あんたといるとまわりからの視線が痛いの」


「…」


私がそういうと無言で睨みながら席に戻って行った。
言うわけないじゃん。
どうでもいい

まあ、正直驚いたけどね。
あの『学園の王子』である桐谷透里の好きな人が、教育実習生だなんて。


こんな情報特に知りたくもなかったのに、知る羽目になるなんて…とことんついてなかったよねはあの時のあたしは




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