私は君と嘘をつく
時は一週間前まで遡る。
その日、私たちのクラスに教育実習生の人が来た。
なかなか綺麗な人で、クラスが少しざわつくくらい彼女は魅力的だったんだと思う。
「これから約1ヶ月、ここのクラスのみんなと過ごさせて頂きます。花岡純鈴です。よろしくお願いします。」
最後に口元を緩めて、ニコッと笑った彼女に、男子達は色めきだった。
なんなら、担任の藤本先生でさえ、気持ちの悪い笑みを浮かべていた。藤本先生は既婚者だからどうかと思うけど
「コホン…えーとじゃあ、花岡先生に校舎を案内してくれるやついるか?」
「はい!!!俺やります!!」
「はあ?!お、俺がします!!」
どこからこのやる気が出てきたんだというくらい手が上がる。主に男子から。
女子は怒りを通り越して呆れていたのを覚えてる。
でも、それ以上に女子が悲鳴をあげたくなる出来事があった。
「お前ら黙れ!お前らみたいな野生のサルに花岡先生は任せられん!…お、桐谷!お前なら、安心できる!案内してくれるか??」
「…いいっすよ」
その瞬間、女子の声にならない悲鳴と、男子の批判の声が飛び交った。
当たり前だよね
王子サマとお姫サマをいっぺんに救い取られるわけだし
そのまま、放課後まで、女子は彼女について小さくではあるが噂し、男子は大きな声で羨ましいだのなんだのを王子サマ…いや、桐谷に言い続けていた。
当のご本人様方は気にしていない様子…
でも、明らかに…この時から桐谷はソワソワしていた。
______放課後
1度は校門の近くまで来たあたしは、教室に大切なのものを忘れたことに気がついて急いでかけ戻った。
教室の前まで来て、ドアに手が触れるか触れないかの寸前、中から声が聞こえた。
「……なんでここに来たんですか。」
「ん~?だって、ここなら、透里君に会えるでしょ?」
「っ…どうせ好きでもないくせに」
「うん、でも、君は私のことが好きでしょう?だから、きたのよ」
なんてドラマ、これ。
そう思いたくなるほど凝ったストーリーだと、その時は思った。
この時、桐谷が彼女のことを好きだとか、そんなことは気にしていなかった。
あたしは数分おいたあと、今走ってきましたっていうぐらいの表情で中に入った。
「あれ…?まだいたんですね。良かった、忘れ物したんです」
「あら、そうなの?えっと…」
「あ、志吹です。」
「志吹さんね、忘れ物はありそう?」
ロッカーの中から封筒を出して、鞄にしまう。そしてもう一度彼女の顔を見た。
整っている。
「ありました、じゃあ、先生…桐谷、さようなら」
「ええ、また明日ね」
「…」
そのまま教室を出て下駄箱へ向かった。
特に彼女は悪びれる様子もなく、ただ彼だけがいつものドライな感じではなく、焦りを浮かべていた。
下駄箱につくと、後から声をかけられた
この声はさっきも聞いた
「…何?桐谷」
「…お前、さっきの会話聞いてたんだろ」
「うん。あー、いや、別に?」
「……俺、別に…花岡先生のこと…」
「…」
あー、今の彼はクールでドライな彼ではなく、好きな人がバレて焦る中学生のようだ
「別に、あたしは何も言ってないけど…」
だから、こう、からかいたくなってしまったのかもしれない
すると、案の定、普段はあまり変わらない桐谷の目が見開かれた
「…チッ…」
「…いいんじゃない?別に好きでも」
「…うるせえ」
そのまま来た道を帰っていく。
…何、何が言いたかったのか私にはさっぱりだ。
前からよくわからないとは思ってたけどここまでとは
なんでこんなクールでスーパードライな人がモテるんだろうね
優男のが断然いいのに。