煙草の味
 わたしが煙草を嫌いになったのは、彼女のせい。

 高校生の時、ちょっと試してみない、と彼女に言われて吸ってみた。苦い味は、案外わたしの好みに合っていた。臭いでばれないようにしながらも、それなりにはスパスパと吸っていた。

 でも、ある時わたしは見つかった。

 世の中には目鼻のきくお巡りさんがちゃんといて、

「君、煙草の臭いがするんじゃない」

 とカバンの中をチェックされた。

 封の開いた煙草の箱、中身の入った携帯灰皿が出てきた。
 吸っているところを捕まったわけじゃないから、言い逃れられたかもしれない。でも、わたしは馬鹿正直に白状した。

「悪いけど、君の将来のためだから」
 そのお巡りさんは、もっともらしい顔をしていた。

 その時わたしについていた煙草の臭いは、単なる喫茶店の臭い。禁煙席が開いていなくて、わたしたちは喫煙席に座った。加奈子もいっしょだった。

 馬鹿正直に白状したわたしに、

「麗香、まだ吸ってたの? わたし、二三回吸ったら止めちゃった。だってあれ、とっても苦いでしょ」

 と、彼女は後で驚いた顔をした。

 そうしてわたしは煙草を止めた。

 それでもわたしは加奈子といっしょにいた。
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