煙草の味
「…………」彼はビックリした顔をしていた。

「どうせ――、加奈子でしょう。そんな馬鹿なことを教えたのは。あの子、ずっと勘違いしているの。自分のイメージをわたしに押し付けて、いつだってそう。わたしはそんな彼女に流されて流されて、あなたと付き合ったことだって、彼女に流された結果だったッ」

 今まで口にしたこともなかった言葉を、わたしは彼にぶつけていた。

 わたしはきゅっと口をつぐんだ。

 あーあ、彼とはこれまでかも知れない。

 自分の気持ちを出したのも初めてなら、もちろん喧嘩をするのも初めてだ。

 ここで彼とは別れてしまって、冷静になった後日のわたしは、加奈子にまた流される。そうして別の優良物件くんを紹介される。
 わたしはもう、そんな近未来のシナリオまで考えてしまっていた。

 でも、彼はわたしの目をじっと見つめていた。

「…………なんですか」

「言ってくれればよかったのに。だったら僕は、君と付き合わなかった」
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