煙草の味
 その言葉に、
 ポロリ、とわたしの目から涙がこぼれた。

「あれ? どうして……」

「え、ご、ごめん……。そんな、君を悲しませようとしてそんなことを言ったわけじゃ。え、……えっと……とにかく、ごめん」

 彼は慌てていた。でも、わたしは彼に構ってはいられなかった。

 なぜならわたしは、――彼と付き合わなかったら、という――その仮定が、その仮定を考えた自分が、堪らなく悲しい気持ちになっているということが、信じられなかったから。

 わたしは……、彼のことが好きだった?

 わたしの涙は止まらなかった。

「……そんな……ごめん」

 おろおろする彼に、わたしは泣きながらも、頼りないなぁ、と思ってしまう。

 いつもわたしを大事にしてくれていた彼。

 いつもわたしをリードしていた彼。

 その彼の情けない姿なんて、初めて見た。

 でも、わたしはそんな彼が好きだった。

 また、可愛いなぁ、なんて思ってしまうのだった。

 わたしは止まらない涙に、彼をひっぱってその胸に顔を埋める。
 涙だけではなくて、鼻水まで出ていると思う。

 こんな顔は見せられない。

 彼も自分の胸がすごいことになっていることは分かっているはずだ。
 でも、何も言わず、おずおずと、それでもわたしを力強く抱きしめてくれた。
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