消える世界で、僕は何度でも君に会いにいく。



畑中さんは、まるで守るように両手でスケッチブックを抱きしめながら、僕に背を向けて座り込んだ。


「…っう、ぅう……っ。見ないで…お願い、お願い……見ないで……」



小さく震える体。


怯えるような涙声。


全身で拒絶を示すその姿は痛ましくて。


見ているだけで、胸が締め付けられる。



「こめん、僕…」


「見た…?」


「……え?」


「中……見たの…?」


「………うん」



落ちる静寂。


長い、沈黙。


とにかく何かを言わないと、と妙な焦燥感に駆られる。


「そ、それ人物画……だよね?」



顔ははっきりしていなかったけど、いろんな視点から、同じ人を描いているらしかった。


繊細に丁寧に描かれたものから、殴り描きされたようなものまで様々。


見開きを埋め尽くすほど、同じ人を。


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