消える世界で、僕は何度でも君に会いにいく。



でも、スケッチブックには僕だと分かるような決定的な何かはない。


それに、思い出しながら描いてるって……?



「顔を見た時の感覚は覚えてる。顔のパーツがハマればそれが直人くんだって分かる。だけど、時間が経つと忘れちゃう。
直人くん、私ね……」



すっ、と一息間を置いた彼女は、僕を真っ直ぐに見つめる。


一瞬、迷うように視線を彷徨わせたけど、唇を震わせながら秘密をさらけ出した。





「私、人の顔が覚えられないの」



衝撃の秘密を。


僕に、はっきりと告げた。



「会ったら特徴とか顔のパーツとかで誰だか分かるんだよ。暗い部屋に徐々に明かりが灯るようにゆっくりと。でも数時間もすると糸がほどけたみたいに頭から抜けちゃうの。
だから、会うたびに描いてた。思い出せるように、次に会った時に私から声をかけられるように。何度も何度も描いてた。だけど、ダメなの」


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