消える世界で、僕は何度でも君に会いにいく。
「あ……っ」
小さく声を上げると、勢いよく立ち上がって慌てて電車を降りていく。
すぐ横を通る彼女を横目に、僕はというと、いらぬお節介にならなくて良かった、と安堵の息を漏らした。
と、視界の端に何かが写って首を傾げる。
「…?」
なんだろう。
それは、花のワンポイントが刺繍された、至ってシンプルな薄紅色のハンカチ。
四つ折りにされたそれを拾い上げて、裏返すと、端の方に小さく『S.H.』の文字が刺繍されていた。
「え…っ?」
さっきは見なかったし、ここに落ちているってことは……
もしかして彼女の…!?
《ドアが閉まります。ご注意ください》
まずい…!
今渡さないと、絶対渡せなくなる。
僕はそういう奴だ。
なんて、後々考えたら事実そうなんだろうけど、この時の僕にそんなことを考える余裕もなくて。