【完】ホタル
「ユキ!」
「お前の誕生日なのは承知で頼みがある。
俺の願いを叶えてもらっていいだろうか。」
「……ユキ!」
「結婚式、というものを体験してみたい。
見たことはあるが、生まれてこのかたやったことはないからな。」
「どうやって、用意したのよこれ。」
「少し、遠出して手伝ってもらった。」
そう言ったユキの顔はいつもより青白くて。
今にも消えてしまいそうだった。
妖力もほとんど残っていないのに無茶して……。
その優しさが嬉しくて、涙がこぼれる。
「泣くな、せっかく綺麗なんだから。」
「うん……。」
「黒い髪によく映える。白無垢が似合うな、夏菜。」
ユキの用意してくれた白無垢は。
結婚式に着るあれとは少し違うけれど。
それでも、ユキが私のために用意してくれた服。
これ以上のものなんてないよ……。
巨大樹への道が蛍の光で照らされていて。
木の目下には小さな台の上に小さな箱が乗せられていた。