【完】ホタル
ハクの手が私の頬に添えられる。
その感触のない手にまた涙がこぼれる。
それでも私は笑った。
下手くそな笑みを浮かべた。
「あ、りがとう、ハク。」
「ああ。」
「好きだよ、ずっと。」
「俺も、愛してる。夏菜。」
そう言って目を瞑り、重なる唇の感触を待つ。
その時そっと風が頬を撫でる。
目を開ければそこには。
さっきまでハクが着ていた服だけが。
床に落ちていた。
「……っあぁ。ハク……ハク!!」
感触の無いキス。いなくなったハク。
小さいころから好きだった匂いが、ほんのり残っている。
着ていた服を握りしめ。
私は泣き叫んだ。
16歳の誕生日。ハクと迎えた8回目の夏。
彼は、黄色の光を放つ誓いの指輪と。
消えることのない恋心を置いて。
私の前からいなくなった。
空を見上げれば。
ハクの光の粒が月に吸い込まれていって。
もうここにハクがいないんだと。
私に、そう伝えた。