【完】ホタル
最終話
「気をつけるのよ。」
「うん。」
新学期、私は制服を身にまとい玄関で靴を履く。
あの日、ハクを失った私は。
枯れるまで涙を流した。
それでも涙は止まることなく。
今でも夜は涙を流さずにはいられなかった。
夏の匂いが。森のざわめきが。
夜の月あかりが。蛍の光が。
ハクの全てを思い出させた。
光っていた指輪も、蛍の寿命と同じ1週間で。
その光を失った。
それは、もうここにハクがいないと証明するもので。
ハクが私に残した唯一のもので。
私はそれを、常に持ち歩いている。
「お母さん。」
「なに?」
「……いつもありがとう。」
「……えっ。」
「いってきます!」
「ちょっ、夏菜!」
何年かぶりのありがとう。
それを伝えたお母さんはひどく動揺していて。
持っていたマグカップを床に落としていた。
わたわたしている姿を横目に見て。
私はすぐに家を出た。