【完】ホタル
その時ほどお母さんを恨んだことはない。
私にとってここは。日和村は。……彼は。
私の生きるすべてだったから。


その日、おばあちゃんと1年間分の思い出話をして。
一緒にお風呂に入って。
おじいちゃんにお線香をあげて。
寝る時は別々の部屋で。
そうして私たちは眠りについた。


そう、おばあちゃんは思っているはず。


夜も深まった頃。
私はパジャマから白いワンピースに着替えて。
縁側からサンダルに履き替え家を出た。


おばあちゃんと別々に寝るのはこれが理由。
彼に、会いに行くために。


家の裏にある大きな森、日和森。
そこは昔から人ならざるものが出ると噂され人間の出入りが途絶えた場所だった。
私も小さい頃、森に入れば2度と出られなくなると言われてきた。
この村の人間は、森に足を踏み入れることはない。


彼はそこにいる。
私はその森に躊躇なく足を踏み入れる。
早く、会いたい。会いたい。
無我夢中で走っていく。


小さい頃は迷って、彼にからかわれながら歩いた道も。
もう何年も通っていれば目をつぶってでも行けそうなくらい。
それくらい私はこの森に足を運んでいた。



あと少し。あと数メートル。
この茂みを抜ければ……!


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