【完】ホタル
“こっちへ来い”
「え……。」
なに、いまの。
どっかから、声聞こえた……。
辺りを見渡しても誰もいなくて。
それでも確かに声は聞こえて。
でも不思議と、怖くはなかった。
声が聞こえてから。
月あかりが妙に気になって。
絶対に一人で外に出ちゃダメよ。
そう言われているのに。
私は、障子をひっそりと開け。
一歩、外へ飛び出した。
どこに向かうとか、そんなの考えていなくて。
でもなぜか身体が勝手に動いていた。
気付けば走っていて。
入ってはいけないとそう言われていた森に。
何の抵抗もなく足を踏み入れていた。
心臓はどくどく脈打ってうるさくて。
身体は震えが止まらなくて。
怖いのに、走る足を止められなかった。
鬱蒼とする林が風で揺れて。
その揺れた姿がお化けに見えて。
目からは涙がこぼれた。
無我夢中で走り抜けた先には。
巨大樹が月に向かって大きく立っていた。
その木の周りは何もなくて。