【完】ホタル
草木と、小さな花がぽつりと咲いているだけ。
そこだけ別世界に見えた。
気付けば足は止まっていて。
怖さもうるさい心臓も収まっていて。
ただ月あかりに照らされた木を見つめた。
「なんだお前。」
「えっ。」
またあの声。
しかも今回のはちゃんと聞こえた。
頭の中で聞こえるんじゃない。
「誰だ。」
そういった声の主は。
巨大樹の上から飛び降りた。
死んじゃうって思って目を閉じたけど。
気になってうっすらと開けて確認すると。
彼は平然と立っていて、こちらへ歩いて来ていた。
あんな高い所から飛び降りたのに。
この人、すごい。
「お前、名前は?」
「……夏菜です。」
「夏菜?トキではないのか?」
「トキ?……もしかしておばあちゃんのこと?」
「お前、トキの孫か?
もうそんなに時間が経ったのか……。」