【完】一ヶ月の恋人
身体を横に向けると。
斜め前に爽太の顔が見えた。
ち、ちかい……。
今までは手を繋ぐとか頭を撫でるとか。
それくらいだったのに……。
こんな物理的に近いのは初めてだ。
っていうか、男の人がこんなに近いの初めてだし。
初めての事に心臓が追い付かない。
ふわっと笑った爽太はゆっくりと手を回し。
そっと、壊れ物を扱うように。
優しく抱きしめてくれた。
その時鼻孔をくすぐった石鹸の匂いに。
顔が赤くなる。
ドキドキ、うるさい。爽太にバレちゃう。
そっと距離を取ろうとすると。
後ろに回った腕の力が強められ身体が密着する。
ち、ち、近い!!
「詩羽も腕、まわして?」
耳元でささやかれ、耳まで熱を帯びる。
おそるおそる背中に腕を回すと。
爽太の体温をより強く感じた。
あったかい……、ちゃんと生きてる。
それが嬉しくて。少し冷静さを取り戻した。
そうした事で分かってくるものもあって。
私と同じくらい。
爽太の心臓もどくどく脈打っていて。
すぐ横にある横顔を見ると。
耳まで真っ赤になっていた。