【完】一ヶ月の恋人
今思えば、それはただの建前だったのかもしれない。
本当は。
一目見た時から彼女に惚れてしまっていて。
そんな彼女が止まることのない涙を流しながら想う相手が羨ましくて。
嫉妬して。
そんな想いを自分にぶつけてほしいと思って。
「1ヶ月の間だけでいいので恋人になってくれませんか?」
気付けばそう言っていた。
彼女は困っていて。
きっと断られるだろうと思った次の日。
よそよそしくも承諾してくれた。
1週間、徐々に打ち解けていく姿を見て嬉しくて。
もっともっとこっちを見てほしくて。
時々外を見つめる姿は。
きっと想い人の事を考えているのだろう。
僕を見ているときよりも色っぽくて、美しかった。
スキンシップという建前で抱きしめると。
身体の柔らかさ、線の細さ。
髪の毛から香る甘い匂い。
ピンク色に染まる頬。
遠慮がちに回される腕。
そのすべてが愛おしくて。
だから、止まらなかった。
自分の欲望をせき止められなくて。
彼女の頬にキスをした。
案の定怒られて。
彼女は数日、病室に来ることはなかった。