初恋のカケラ【3/13おまけ更新】
先輩はほとんど飲み終わっていたカップを見たあと立ち上がる。

「出ようか」

コーヒーショップは隣との距離が近い。
ふとした瞬間にも隣の会話が聞こえてきたりして、たまに私も聞き耳をたてたりする時もある。
だから場所を移動しようと言った先輩の意図がわかって頷いた。


さすがに11月の外は寒い。
じっとしているのはあきらめて、とりあえず歩きだす。

「あ、もしかしてあの宝飾店のツリー飾ってあるかもしれませんね。見に行ってみましょうか?」

クリスマス時期には立派なツリーが飾られる事で有名な宝飾店。
たしか11月のある日の夕暮に大きなトラックがもみの木を運んでたのを見た事がある。
それを一晩かけて設置するらしい。

あれは、今ぐらいだったから設置されてるといいんだけど。
それに目標もなく歩くよりは、いい。

「ん、そうだな」

街路樹の葉がサワサワと音をたてる。
その音が急に聞こえてきてふと街路樹を見ると、あぁもうすぐ冬なんだなって五感で感じる。

「だいぶ、寒くなったな」

ショートピーコートのポケットに手を入れて言う先輩はそう寒そうには見えない。

だけど、寒いのは手じゃなくて、―――心。
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