初恋のカケラ【3/13おまけ更新】
もう何度目かわからない乾杯を日本酒でしてそっと口をつけテーブルに置く。
この前私が失態を犯したあの店のカウンター。笑顔で女将は迎えてくれた。

「ハ、やっぱり酔えないな」

そう呟いた坂下くんはまた冷酒を煽る様に飲む。

いくら酔えないと言ったからって、さすがにこれ以上は体に悪い。
女将にお冷をもらい、そっと坂下くんに差し出す。

「ちょっと、飲み過ぎ」

「大丈夫だよ、どうせいくら飲んでも酔えない」

さっきから“酔わない”んではなく“酔えない”。坂下くんのその言い方が気になってた。
それに、どう見ても自棄になってるようにしか見えない。

「でも、―――」
「もう少しだけ、付き合ってよ」

私の言葉をさえぎるように言った坂下くんのその声はいつもと違って弱弱しい。

きっと彼は一人になりたくない理由がある。
そう思ってしまったのは、やっぱりソレのせいなのか。

「……気付いてるよな」

グラスを握っていた手をパッと離して左手を広げた坂下くん。
そこにはやっぱり、あったはずのものがない。
どう言ったらいいか困っていると、

「さっきから、気にしてるみたいだったから」

「あ、ごめん……」

何度となく見ていた事、坂下くんも気づいてたらしい。
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