初恋のカケラ【3/13おまけ更新】
「当たり前のものが無くなって、気付かされるとか、」
ハ、
ため息なのか、声が漏れただけなのか。
冷静を保とうとしてるのかいつもより表情が硬い。
いつもより、なんて言うほど大人になってからは会ってないけど。彼が纏っているものは決していいものではない。
このまま一人にしたら、どんどん悪い思考に捕われてしまうんじゃないかってぐらいに。
コトン。
目の前に置かれた湯呑。
「はい、坂下さん。今日はこのへんにしておいてもらわないと。うちのお酒がなくなっちゃうわ」
カウンターから置いてくれたその湯呑からは小さく湯気がたってる。
女将の言い方が心に優しく響いて、色々わかった上での言葉だと悟る。
「…あ、なんかホッとしますね、これ」
少し厚みのある自然な色合いの湯呑にいれられていたのはほうじ茶だった。
手に持つとしっくりとなじむ湯呑の存在もそのホッとさせてくれるのを手伝っている。
「お酒の後でもね、胃に優しいから」
女将の気づかいが心に優しく染みわたる。
残念ながら私にはできない事だ。
結局私は、ただ坂下くんの隣に居ることぐらいしかできない