初恋のカケラ【3/13おまけ更新】
その言葉に胸がキューっとしめつけられた。
どうして私は、いつも先輩にこんな想いをさせてしまうんだろう。
どうして私は、先輩を安心させてあげられないんだろう。

「せ、……タケシさ…」

初めて名前を呼ぶのがこんな時なんておかしいかもしれないけど。

【無くなって気付くなんてな】あの時の坂下くんの言葉が頭に響く。

今私が、なくしたくないもの。今、先輩にしてあげられることはこれぐらいしか思い浮かばない。
だけど呼びなれないせいかうまく呼ぶ事も出来なくて。
結局私は先輩がして欲しいと思う事、何一つ上手にできない。


腰にまわっていた手が離されて、先輩の胸に置いていた手をゆっくりと取られた。
両手を捉えられてさらに距離を縮めた先輩に少しだけ見下ろされる。

「もう一度、呼んで?」

アルコールの匂いがする先輩の、その吐息さえも感じるその位置にクラクラする。
自分だってきっとアルコールの匂いがしているはずなのに。

それに、気づいてしまった。
先輩のその瞳の奥の欲に。

「……」

一度伏せてその視線から逃れる。
その熱をまっすぐに受け止める自信がなかったから。
それに、

「ノリ、……呼んで?」

なんで先輩の声はこんなにも甘いのか。

切なくて、そして……なぜか胸の奥が痛くなる
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