初恋のカケラ【3/13おまけ更新】
塞がれたのは私の唇。

「やられっぱなしってのはな、」

先輩はそっと唇を離し、触れるか触れないかギリギリのところでそのまま呟く。
そして今度はゆっくりと味わうように。

やっぱりそこから先輩の想いが伝わってくる。

優しくて、
時々情熱的で
……そして繊細。

その想いを私はただ受け止める。

最後に名残惜しそうに音をたてて離れていった唇をずっと見ていたら、

「なに?もっと欲しかった?」

ハッとして先輩を見れば、ちょっと意地悪な顔をしてる。
でも、その顔はいつもの先輩の顔で安心した。

「もうっ、」

照れ隠しにそんな風に言って今度こそコートを受け取った。

「クルミ、なんか用意しててくれたんだろ?」

「あ、はい。えとワインありますけど、コーヒーの方がいいですか?」

先輩はソファーに座るとネクタイを少しだけ緩める。
そんな先輩からは大人の男を感じるのに、私に触れている時の先輩はどこか不安そうで。
覗き込んだ時に見た瞳は、いつか見た事がある……

あぁそうだ。
先輩たちが引退が決まったあの日。

それに、先輩の卒業式の日。

あの頃のまま。
……先輩も私といるとあの頃に戻ってしまうのかもしれない。
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