初恋のカケラ【3/13おまけ更新】
「クルミがなんと言おうと、今日は帰る」
「……わかりました。でも、」
―――もう少しだけいいでしょう?
それは口には出せなかった。だけど、見上げた視線でそれに気付いた先輩。
「今日“は”帰る、けど。」
「はい」
「金曜日。」
金曜日と言えば、仕事納めの日。その日はたぶん同僚と飲んで帰る感じだと思うけど……
「迎えに来る」
決意したようにいうその言葉に、先輩の色々と言った意味が思い当った。
「はい」
「本当は仕事終わったらゆっくりって思ってたんだけどな。クルミに予定狂わされた」
「…ご、ごめんなさい」
「でも、こんな風に予定が狂うのは大歓迎だから」
怒ってるわけではないらしい。その証拠に先輩は穏やかな表情で私を見てる。
それに気をよくした私はまた調子に乗る。
「イイ子で待ってますから」
「はは、わかった」
二人だけが通じるこんなやり取り。そういうのが少しずつ増えていけばいいな。
帰り支度をする先輩を見て、やっぱ寂しく思うのは私のワガママだろうか。
「じゃ、金曜日」
「はい、気をつけて帰ってくださいね」
ドアが自然に閉まるのを見届けると鍵を閉めた。
一人になった部屋で首にかけられたハートのそれにそっと触れる。それだけでなんだか心が暖かくなった。