初恋のカケラ【3/13おまけ更新】
先輩といる時間は楽しいはずなのに、何故か頭の中はさっきの事ばかりで。
そんな私に気付いた先輩も段々と言葉が少なくなっていく。

いつのまにか静かになった後部座席で、繋がれた手からわずかな熱が伝わる。
そしてそのままタクシーは先輩の家についた。


こんなときこそお隣さんが現れてくれたらいいのに。
だけどそううまい事行くもんじゃない。

「今日はアイツいないか」

先輩も同じ事思ってたのか、そんな事を言う。

「先輩仲いいんですか?あの人と」

「あー、年下のくせに面倒見いいんだよ、アイツ」

「そうなんですか」

あの時、人懐っこい印象だけはあるけど、正直見られた事が恥ずかしくてよく顔を見てない。

「部署とか全然違うけど、時間が合えば飲みにも行くよ」

「会社にそういう人いるといいですよねー」

「ん、クルミはいない?」

「んー正直会社の人とはあんまり……」

というか、仕事以外の付き合いは正直したくない。

「そっか。ま、飲むときは仕事の事忘れて思いっきり行きたいもんな」

「そうです、だから今日は飲みましょうね?」

「だな」

大丈夫、今まで通り。
これが私たちらしい。


一週間前、最後に聞いた先輩の呟きは奥に押し込んで。
先輩には楽しさだけを求めた。

先輩と楽しくいる事、それが幸せへの道だと信じて
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