初恋のカケラ【3/13おまけ更新】
「せっかくホットワインで温まったのに、体がまた冷えちゃったね」
「え?あぁ、うん」
坂下くんは意思を持って歩いているようなので、どこかに向かっているのだと思うけど……
「えと、お店って決まってる?」
「さっきホットワイン飲んだから、ワインバーがいいかと思ってるけど?」
やっぱり決まってた。
坂下くんは聞くまで言ってはくれなかった。彼にとってはそれが普通の事でも、私は違和感を感じた。
先輩だったら先に、「こういう所があるんだよ」と説明をしてくれてなお且つ「それでいい?」て聞いてくれる。
そんな事この場で言うべき事じゃない事はわかってる。
「ワインバーって行った事ないから楽しみ」
口にしたのは結局あたりさわりのないそんな言葉。
だけど、そのままの意味で取った坂下くんは「それならよかった」と言って微笑んだ。
その顔を見ればドキドキするし、頬が熱くなっていくのがわかる。だけどそれはあくまで過去の記憶によるもの。
いつの間にか私は、
先輩に包まれて
―――先輩に染まってる?
そう考えると男友達の一人と飲みに来ただけ。その言葉がスッと心の中に入ってきた。言い聞かせるわけでもなく、それは紛れもない事実として。