初恋のカケラ【3/13おまけ更新】
鍵を開け「どうぞ」と扉を押さえて言う先輩。
こんな何気ない動作にさえ胸に沁みてくるものがある。

先輩はいつだって優しくて、そして私だけを見ていてくれる。これ以上何を望むというのか。

先に玄関に入り靴を脱ぐと、後から入って来た先輩が靴を脱ぐのも待ち切れずに抱きつく。

「わ、」

突然首に絡みつかれたら、誰だって声が出ると思う。しかもギューっと強くしがみ付いているんだから。

「……クルミ?」

私の肩で髪に埋もれてる先輩の声は少しこもってる。それに構わずに「ん、」と返事をする。

「どうした?」

その声のようにゆっくりと優しく背中に腕が回ってくる。添えるようにまわされたその腕は、まだ冷たい。

「……寒かったの、」

心が。

「先輩も、寒かったでしょう?」

こんなに冷たくなって。

「何?クルミが温めてくれるの?」

先輩は肩から顔を上げて、耳元で艶のある声で言う。その言葉に迷うことなく答える。

「うん……」

「え、」

先輩は無理に拘束を解くと、私の顔を正面から見る。

「クル、ミ?」

そして艶のある声が驚きにかわった。自分から言っておいて驚くなんて。
その言葉に答えることなく、もう一度その体を抱きしめた。
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