初恋のカケラ【3/13おまけ更新】
いつもと変わらない冷静な態度で坂下くんはコーヒーに口をつける。
たぶん、嘘は言っていない。

「何?坂下、今一人なの?」

何でもない風を装って聞くノリちゃん。私だったらきっと声が上ずって怪しまれてた。
チラリと横を見れば、カップを持ったまま坂下くんは「うん」と小さく頷いた。

「奥さん、どうしたんだよ?」

突然話に入って来た木村は、やはり直球で聞く。真剣な目で坂下くんを問い詰めるように。

「ん、実家。」

坂下くんはその視線に気づいてるのかわからないけど、誰とも一度も目を合わせずにコーヒーを飲みながら答える。

「実家って、なんで?」

その激しい問い詰めにやっと顔を上げた坂下くんは、

「体調がよくないらしくて、」

体調だけ?
咄嗟に坂下くんの左手の薬指を確認する。やっぱり今日も、ない。

「……まぁあれだよな、実家行ってもらった方が心配じゃなくていいよな」

「そうだね……」

二人はそこで納得したのか、離婚とか別居とかそんな言葉は出て来なかった。
あの勢いなら核心に迫ると思ってたのに、なんだか肩すかし。そう思ったのは私だけではなく、

「坂下、指輪は?奥さん実家にいるって、まさか別れ…―」
「ノリカっ」

ノリちゃんのその質問を止めたのは、木村。
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