初恋のカケラ【3/13おまけ更新】
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カチャカチャとカップの中をかき回す音が響く。
とりあえずカフェに入ったけど、坂下くんは挨拶してから一言も発してない。
緊張した面持ちで口をくっと結び、クレマの消えていく様を見ている。
電話のあと、すぐに最寄り駅まで来てこうして対面しているのだけれど。
話があるのは坂下くん。
遅い時間でもないし、後に約束があるわけでもない。
だから急かす事はしなくていいのだけれど、なんともこの時間が落ち着かない。
先週末に会って以来だけど、心なしかやつれて見える。
きちんと食べてるんだろうか。私が心配することではないのかもしれないけど。
目の前の坂下くんを観察していると、不意に顔を上げてカップを右手に持ち口へ運ぶ。
コクリと喉が鳴ったあと、小さく息を吐く音が聞こえた。
「ごめん、休みの日に呼び出したりして」
「あ、うん。大丈夫。家で暇してたから」
顔は上げているのに私とは目を合わせる事なく、話しだす。
こんな坂下くん、珍しい。
こっちが恥しくなるぐらいに目を見て話すような人だったと思うんだけど。
「少し長くなるかもしれないけど―――、