初恋のカケラ【3/13おまけ更新】
「あのあと、実は妻の実家には行かなかったんだ」
「え……」
私は坂下くんをその場に置いて、すぐに電車に乗った。
だから当然そのまま行ったと思ってたのだけれど。
「胡桃沢さんに言われて、もう一度冷静に考えてみたんだ。」
「……うん」
冷静に。
あの時冷静ではなかったってこと?
奥さんに告げられた事を私に淡々と話しているように感じたけれど、あれは冷静ではなく動揺してたから?
「くるみが家を出てから寂しかったはずなのに。段々とそれに慣れて、しかも聡たちといるときには楽しいとさえ感じた。あの頃に戻ったみたいに、みんなといられる事が嬉しかったんだ。」
それは私も思ってた。
あの頃に戻ったみたいで、やり直せるかもなんて。
「うん」
「だけど、それは逃げでしかなくて。胡桃沢さんに彼女と話をするように言われてやっと気付いたよ。」
ふぅー
そこで大きく息を吐くとまっすぐに私の目を見つめて、
「この前も言ったけど、あの頃胡桃沢さんの事、気になってたんだ。だから卒業アルバムにもあんなこと書いた。」
《前途有望だった》
未来は明るいって意味なのに、何故か過去形。
その言葉の意味を聞けないまま年月を重ねてきた。
だからずっと、気になっていて。アルバムと共に実家に封印してきたつもりでいたけど、心のどこかでずっと引っかかっていた言葉。