初恋のカケラ【3/13おまけ更新】
その週末、家に迎えに来た先輩は今日もかわいらしい服装で、本当にこの人は私よりも年上なんだろうかと思う。
会社で同期の男子は、もっとずっとおじさんで。子供がいるからかもしれないけど、それにしても先輩は若く見える。

「車だからコートは着なくていいよ」

玄関でそう言うと、私の右手から荷物を持った。
ズッシリとした重みのそのカバンに先輩はクスッと笑う。

「あいかわらず……」

「すみません、荷造り下手なので」

言葉を遮るように、言い訳を言う。
やっぱり今日も大きなカバンの私は、本当に荷造りが下手なんだと思う。

「ん、ますますよかった。車にしておいて」

顔をクシャっとさせて笑うと、

「日曜まで帰れないから忘れ物しないように」

どこかで聞いたセリフ。
そして二人で顔を見合せて笑うと、先輩は私の瞼に軽くキスをした。

「あんまりここにいると、部屋から出たくなくなるから。」

先輩は照れたようにそう言うと玄関の扉を開いた。


何気ないいつものやり取り。

先輩との想い出は増えているのに。
この笑顔を守りたいと思ったのに、私は。
……自分から今それを、壊そうとしている。

ここを出たら、もう戻れない。
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