初恋のカケラ【3/13おまけ更新】
そのバーの雰囲気に慣れて桜色のカクテルもなくなってきた頃。待ち人は現れた。

「ごめんっ、クルミ」

仕事帰りだから当然スーツなんだけど。この前会った時は私服だったから、その違いにちょっとドキっとする。
そんな私に気付くこともなく先輩はバーテンダーにオーダーすると隣の席に座った。

少し薄暗い店内でもわかる疲労の浮かんでいるその顔。溌剌とした笑顔さえ今日は見れない。
先輩のビールと私の二杯目が届けられるとグラスを持って「おつかれさまです」と言ってグラスを傾けた。

「今日は早く上がるつもりだったんだけど」

「大丈夫です。私もこれ、飲んでましたし」

ピンク色のそれを差して見せる。桜色で綺麗な飲み物を見たら当然興味を示すだろうと思ったのに「なら良かった」とだけ言ってまたビールに口をつけた。
少しだけ違和感を感じたけど、疲れてるんだしそんなこともあるかとそれを打ち消した。

先輩はビールを一気に飲み干すと、ふぅーと大きく息をはいた。そして私の方を向き、

「長期の出張が決まった」

難しい顔で、一息にそういうとあとは押し黙る。
長期ってどれぐらい?て聞いてもいいだろうか。というか、私が次話し出さないと会話が成り立たなそうだ。

「それってどのぐらいなんですか?」

「三ヶ月」
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