初恋のカケラ【3/13おまけ更新】
人通りの多い道に面した場所に看板はない。
木目の黒い壁と階段があるだけ。

「え、先輩。ここにお店あるんですか?」

少し薄暗いその階段に時折あるのは蝋燭に似せた灯りだけ。
不安に思って聞くけど「大丈夫だから」そう言ってそのまま階段を上っていく。
そして、同じ黒い木目の古ぼけたドアををあけて入っていく。

どうやらここはアイリッシュパブらしい。
看板を出さないのはお子さまたちでお店の雰囲気が壊れないようになんだとか。

「先輩、なんか大人ですね」

こういう場所が行きつけだと言った先輩への正直な感想。
私は飲みに行くといってもやっぱりメインは食事で、純粋にお酒を楽しむって言うにはまだまだな気がする。

「会社の奴に教えてもらって、それ以来やみつきになった」

「なるほど」

さっきの居酒屋と違って、このお店にいる先輩はすごくしっくりしてる。
さり気なくまくった袖も、そこから覗く腕さえも妙に色っぽさを醸し出してる。

「んで、一人でよくここで飲んでんだよね」

「え?一人でですか?」

「ほら、おれ独り身だし?」

先輩の言う独り身とは結婚してないという意味なのか。
それとも……

「あ、オーダーする?」

そこで思考が終了させられた。
そういえば、ここに入ってから坂下くん、ほとんどしゃべってない
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