初恋のカケラ【3/13おまけ更新】
ちょうど退勤時間と重なって電車はかなり混んでた。さすがにつぶされるような事はないけれど。

「クルミちゃん平気?」

「いつもの事だから、」

頭一つ出ている相良さんから見たら、辛そうに見えるのかもしれない。だけど朝のラッシュ時なんてこれよりひどい。

「知り合いが少し前に東京に越してきてさ。そいつ小さいから満員電車は息出来ないとか言ってたから」

小さくて息が出来ないとなると女の子ってことか。相良さんが少し目を細めて何かを思い出しながら愛おしそうに言うから。

「それって実は彼女とか?相良さん追いかけてきちゃったとか?」

ちょっと冗談っぽく質問しておいて、チクリと胸が痛む。

「……イトコな。それに婚約者の所に引っ越してきただけ。」

そう言った相良さんの顔が一瞬歪んだように見えた。ただのイトコってわけじゃなさそうな。

「私も地元から引っ越してきて満員電車に初めて乗った時の衝撃と言ったら」

「はは。そんなに?」

「うん、うちは関東圏なんだけどこんなには混雑しないからちょっとビックリした」

「混んでんなーとは思うけど、そこまでは俺はなかったなー」

そこで電車が駅についた。

私を庇うようにして肩に置いた相良さんの手の温もり。それを感じながら押されるようにしてホームに降りた。
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