初恋のカケラ【3/13おまけ更新】
「無事、生まれてね」
店員さんがコーヒーを置いて去っていくと坂下くんはすぐに話し始めた。
「おめでとうございます」
「ありがとう。こういうの何度言われても照れるね」
そう言ってしきりにコーヒーをかき回す。ミルクしか入れてないのだからそんなにかきまわさなくてもって言うぐらい。そんな姿の坂下くんを見るのは当然初めてて、なんだか可愛いと思った。
彼とは同級生なのに、いつも自分より上に見えてた。でも案外それは初恋の相手で理想のフィルターみたいなものが掛かって見えていただけなのかもしれない。
こうしてみれば、パパの顔を見せている他の同級生と何ら変わりはない。
「坂下くん、パパって顔してる」
すごくすごく、幸せそう。
私たちと頻繁に会っていた頃の顔とは明らかに違う。
「まだまだ新米パパだけどね」
あの頃は想像できなかったけど、今はそんな姿が容易に思い浮かぶ。
照れながらも微笑む彼は確かに前進している。それは私に少しの勇気をくれた。
「いつかみんな家族で遊びに行けたらいいね」
その時、私の隣にいるのは誰なのか。その人の横で私は坂下くんのように微笑む事が出来るのか。
いつか本当にかなえばいい、そう思いながら坂下くんとそのラウンジで別れた。