初恋のカケラ【3/13おまけ更新】
立ち上がった相良さんを見てノロノロと立ち上がり、飲んでいたグラスを下げようとキッチンに向かって歩き出す。けれど、そのグラスを取り上げられて。

「ん、これは後で俺がやるからいいよ」

そう言われて、帰り支度を促された。ま、帰り支度って言ってもバッグを持つだけ。

「クルミちゃん?」

「うん……」

「明日一緒にパニーニ食べに行こうか」

「え?」

「だから今日はゆっくり寝て、明日早起きする事」

私を見下ろす相良さんの顔はいつもの笑顔で。迷惑だから早く帰って欲しいとかじゃなくて。私がノロノロしてる理由も全部わかって……?

バッグを手に相良さんの方へ歩いて行く。

「彼女と約束したからな。今日帰すって」

「もうっ酔っ払いの事なんて聞かなくていいのに」

相良さんは「ハハッ」と笑った後、急に真面目な顔で、

「ん、でも最初が肝心だからな」

「へ?」

「まぁだから送ってくよ」

そう言った顔はまたいつもの笑顔。その笑顔に私は何度救われたか。
相良さんに言われるとそれが正しいとさえ思える。実際、後で考えてみてもそうして良かった事ばかりだ。

「……わかった。でも近くだし一人で帰れるよ?」

「何言ってんだよ、近くだってもう真夜中だぞ」

仕事や遊びで遅くなることだってある。しかも徒歩五分だ。

「……ほんっと、ノリちゃんとそっくり」

「そりゃどうも」

たった五分の距離だけど、相良さんの大人しく送られる事にした。
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