初恋のカケラ【3/13おまけ更新】

ガラッ―――

今時あまりみかけない引き戸を開ける。

「っらっしゃい」

威勢の良い声に出迎えられ「こんばんは」と挨拶をして店に入る。お店の中はおでんのいい匂いが立ち込めていて、小ぢんまりとした店内にすぐに相良さんを見つけることができた。

いつもと変わらない笑顔。それに少しだけチクリと胸が痛む。それを振り払うように

「返事しないで来ちゃってごめんなさい」

「来れなければ連絡あるだろうし。あ、クルミちゃんも熱燗でいい?」

日本酒にはいい思い出がないけど、おでんに合うお酒といえばやっぱりそれなわけで。

「え?あ、うん」

素直にそれに従う。相良さんの前にはまだ着いたばかりなのかお通しとビールのジョッキしかない。

「さて、何から頼もうか」

「相良さん子供みたい」

目を輝かせてお品書きを見てる姿は本当に子供のようで。相良さんのそんな姿はいつ見てもクスリと笑ってしまう。

「はは、だってうまそーだし」

そう言いながらもいくつか注文してる。私も相良さんの後に注文しようと見るけど、

「うーん、決められない」

美味しそうなのはたくさんある。けれど、そんなに沢山は食べられない。大根は外せないし、卵も食べたい

「俺のつまめば?」

「え?」

「あぁ嫌じゃなければだけどな?」

そう言って笑う相良さんに、少しだけドキリとして。
友達ならそのぐらいなんてことはないよね。
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