初恋のカケラ【3/13おまけ更新】

「え、っと、あの?」

戸惑う私のグラスも奪うと、それもテーブルに置いた。そして私の方をじっと見つめて、

「乾杯してる場合じゃないから」

いやいや、乾杯って言ったの相良さんだし。それに距離が近い。
10センチもあいてない。私の方を向いているから肩が触れ合う事はないけど、少なくとも手を伸ばせばすぐに届く距離にはいる。

「もう無理なんだよね、こういうの」

そう言って相良さんは目を伏せた。

あ、まつ毛長い。いやいや、そうじゃなくて。こういうのって?
少し酒の残る頭で考えようとするけれど、こういうのに思い当る事がなくて下を向いて目を閉じて考える。何も答えにたどり着くような事もないまま。

「俺、思った事すぐ言うけど、それ我慢してるとこうなる」

と言って膝に置かれていた私の手を捉えた。

「マジでホント困ってる。」

今この場で手を繋がれた事に驚いて顔をあげれば、眉を下げて困った顔をした相良さんが見えた。
捕らえられた私の右手を相良さんの両手がしっかりと包んでる。

「ハァー、情けな……」

いつも快活な相良さんの意外な一面にドキリとする。

何かあったんだろうか、嫌な事でも。

弱ってる?みたいな相良さんは初めてで、自分の鼓動が速くなるのを何とか抑えて私は口を開いた。

「あの、何か私で出来る事があれば……」

そんなことあるのかわからない。だけどいつも元気な相良さんでいて欲しい。
< 572 / 820 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop