初恋のカケラ【3/13おまけ更新】
ロッカーの中の小さな鏡を覗いて口紅だけ塗り直す。私は家に帰るだけだから大層な化粧直しなんていらない。

彼の居ないクリスマスイブにはノリちゃんと二人、待ち合わせてご飯を食べることもあった。今ではそれも懐かしい。彼の居たクリスマスもそうでなかった時も今よりずっとおしゃれしてこの部屋を出ていた。

なんだろ、若かったのかな私も。

着替えを終えると「おつかれさまー」と言っていつもよりも熱気のあるロッカールームを出た。


駅構内を歩く人たちはなんだかみんな幸せそうに見える。これも毎年思う事だけど、今年は……目を閉じれば相良さんの顔が浮かんでくる。それだけで温かい気持ちになれる。

もうすぐ会える。
……早く、会いたいな。

そう思うと家に帰る足取りも軽くなる。時間にならないと会えない事はわかっているのに、それでもその足を止める事は出来なかった。

時刻は七時前、さすがにこんなに早く相良さんが帰る事もないだろう。
コートを脱ぎ、暖房を入れてソファーに座る。その時、テーブルの上に置いたスマホがバイブ音を立てた。


着信中:相良さん
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